問題
次の記述は、直接スペクトル拡散方式を用いた符号分割多元接続(CDMA)について述べたものである。このうち誤っているものを下の番号から選べ。
- 擬似雑音(PN)コードは、拡散符号として用いられる。
- 傍受されにくく秘話性が高い。
- 遠近問題の解決策として、送信電力制御という方法がある。
- 拡散後の信号(チャネル)の周波数帯域幅は、拡散前の信号の周波数帯域幅よりはるかに狭い。
解答
4
解説
スペクトル拡散方式では、拡散後の信号の周波数帯域は、拡散前に比べて広がるため、4が誤り。
スペクトル拡散方式
多元接続方式(Multiple Access)の1つに、CDMA(Code Division Multiple Access)という方式があります。
CDMAには、スペクトル拡散方式(Spread Spectrum)という通信技術が用いられています。
スペクトル拡散方式は、BPSKやQPSKなどの変調後の信号(シンボルと言います)に対し、拡散信号と呼ばれる高速の信号を掛け合せることが特徴です。
例えば、元々のBPSKシンボル1ビットに対して、拡散符号8ビットを掛け合せた例を下記に示します。
シンボル間隔の1周期の中に拡散符号の1セットが入るようして、拡散符号を掛け合せます。
この送信シンボルに拡散符号を掛け合せることを拡散といいます。
今回の例では、シンボルに比べて拡散符号は8倍高速な信号です。周波数fと周期Tには、f=1/Tの関係があります。
元のシンボルに対して、拡散後の信号の周期が高速になるほど、つまりTが小さくなるほど、周波数fは大きくなっていきます。
すなわち、拡散符号を掛け合せる行為は、元の信号より周波数が大きくなる、つまり周波数帯域が広がることを意味します。
これがスペクトル拡散方式と呼ばれる理由なのです。
拡散符号について
スペクトル拡散方式を成り立たせているのは、拡散符号の特徴によるところが大きいです。
というのも、この拡散符号は一見、ランダムに見えますが、実は特殊な性質を持つビット列で、疑似ランダム符号(pseudorandom noise, PN符号)と呼ばれる特別な符号を用いています。
なぜ、このようなことをするのでしょうか?
CDMA方式では、基地局とスマートフォンなどの端末が通信する前に、基地局が端末ごとに拡散符号を割り当てます。
なぜなら、全端末で同じの拡散符号を用いると、信号を傍受(盗み聞き)できてしまうからです。
反対に、この拡散符号が知られなければ、信号を復号することができません。そのため、スペクトル拡散方式は秘匿性が高いと言われます。
ただし、この拡散符号は適当にビット列並べればよい、という訳ではありません。
多元接続を行うには、端末に割り当てた符号間の相互相関が低いことが求められるからです。
相互相関とは、2つの信号や符号の類似性を数学的に計算する方法です。
通信では、端末間同士の相互相関が低いと、互いの信号の干渉性が低いということを意味します。
干渉が低ければ低いほど、通信の成功する確率は高まります。そのため、この拡散符号には相互相関が低いことが求められるのです。
この相互相関が低い、という性質を満たすのがPN系列なのです。
PN系列の代表的なものには、M系列、ゴールド符号、Walsh-Hadamard系列などがあります。
遠近問題
しかしながら、スペクトル拡散方式には遠近問題(near-far problem)という問題があります。
遠近問題は、端末の位置関係により生じる問題です。
例えば、下記の様な配置を考えてみます。
基地局と通信したい端末が遠くにあり、干渉となる端末が基地局の近くにあります。
すると、基地局からの距離の違いによって、干渉波の電力が希望波の電力よりも大きく、強い干渉を受けるために、希望信号を取り出せなくなります。
これが遠近問題です。
送信電力制御
遠近問題の対策として、送信電力制御(パワーコントロール)があります。
送信電力制御は、各端末の送信電力を調整することで、基地局での受信電力を一定にするものです。
基地局は、各端末からの電力を観測して、遠方の端末は送信電力を上げ、近辺の端末は送信電力を下げるように指示します。
すると、基地局で各端末からの受信電力が揃うため、遠近問題を解決できるのです。