問題
次の記述は、陸上の移動体通信の電波伝搬特性について述べたものである。( )内に入れるべき字句の正しい組合せを下の番号から選べ。
- (1):基地局から送信された電波は、移動局周辺の建物などにより反射、( A )され、定在波を生じ、この定在波の中を移動局が移動すると受信波にフェージングが発生する。一般に、周波数が( B )ほど、また移動速度が速いほど変動が速いフェージングとなる。
- (2):さまざまな方向から移動局に到来する多数の電波の到来時間(伝搬遅延時間)に差があるため、帯域内の各周波数の振幅と位相の変動が一様ではなく、( C )フェージングを生じる。伝送帯域が狭い場合は、その影響はほとんどないが、一般に、高速デジタル伝送の場合には、伝送信号に波形ひずみを生じることになる。
1 | 屈折 | 高い | シンチレーション |
2 | 屈折 | 低い | 周波数選択性 |
3 | 回折 | 高い | シンチレーション |
4 | 回折 | 低い | シンチレーション |
5 | 回折 | 高い | 周波数選択性 |
解答
5
解説
マルチパスフェージング
下記に、送信機から受信機への電波の到達イメージを示します。
送信機から受信機へと信号を伝送するとき、信号は障害物によって反射を何度も繰り返した後、受信機へと到達します。
このような環境を、信号の通る道(パス)が複数あることから、マルチパス環境と呼ばれます。
マルチパス環境で受信機に届く信号は、この様々なパスを通ってきた信号すべての合成となり、マルチパスフェージングと呼ばれる減衰や波形の歪みを生じてしまいます。
マルチパスフェージングは、周波数一様フェージングと周波数選択性フェージングの2つに分類されます。
周波数一様フェージングは、到来時間の差が小さい波の合成の結果、信号が減衰して振幅と位相が変化してしまう現象です。
一方、周波数選択性フェージングは、到来時間の差が大きい波の合成によって生じ、波形が歪んでしまう現象です。
到来時間が遅い波を遅延波といいますが、高速通信(=周波数が高い)の環境下では、この遅延波により、周波数選択性フェージングを引き起こします。
なぜなら、高速になればなるほど、低速の場合に比べ、同じ時間遅れて到達した波でも”遅れ度合い”が相対的に大きくなり、元々の波形を歪ませてしまうからです。
時間軸で示しましたが、これを周波数軸で表現すると、下記の様になります。
周波数一様フェージングは、その名の通り、周波数全体が一律に減衰しています。この対策として、増幅器で増幅してやれば元の信号を取り出せます。
一方、周波数選択性フェージングは、周波数によって減衰の度合いがバラバラ(=選択的)になっています。つまり、これを増幅器で増幅してもこの波形の歪みも同じ分増幅されるだけで、元の信号を取り出せません。
そのため、高速通信では、周波数選択性フェージングが問題になってきます。
ドップラー効果
携帯電話やスマートフォンの利用場面を想定すると、通信中に移動することはよくある光景です。
このとき、端末側ではドップラー効果(ドップラーシフト)と呼ばれる周波数のズレを生じます。
ドップラーシフトは、下記の計算式で求められれます。
$$\begin{eqnarray} f_D=\frac{v}{c}f \end{eqnarray}$$ここで、fD[Hz]をドップラー周波数、v[m/s]を端末が移動する速度、c[m/s]を光速、f[Hz]を搬送波の周波数を表します。
この式より、周波数が高いほど、また移動速度が速いほどドップラーシフトの影響を受けることになります。