第一級陸上特殊無線技士

一陸特 令和3年6月 無線工学(B)問2

2021-07-14

問題

次の記述は、直交周波数分割多重(OFDM)伝送方式について述べたものである。このうち誤っているものを下の番号から選べ。

  1. OFDM伝送方式では、高速の伝送データを複数の低速なデータ列に分割し、複数のサブキャリアを用いて並列伝送を行う。
  2. ガードインターバルを挿入することにより、マルチパスの遅延時間がガードインターバル長の範囲内であれば、遅延波の干渉を効率よく回避できる。
  3. 各サブキャリアの直交性を厳密に保つ必要はない。また、正確に同期をとる必要がない。
  4. 一般的に 3.9世代移動通信システムと呼ばれる携帯電話の通信規格であるLTEの下り回線などで利用されている。

解答

3

OFDMでは、正確に直交性を保ち、かつ同期を取らないと、サブキャリア同士が干渉してしまいます。

解説

OFDMの特徴に関する問題です。

OFDMでは、低速であるサブキャリアを、同時並行で一気にたくさん送ることで、高速化を実現しています。

サブキャリア1つ1つを低速化することで、遅延波の影響を避けられるからです。

また、OFDMはガードインターバルによって、遅延波によるシンボル間干渉の影響を除去できます。

OFDMは、LTEやWiMAXなどの携帯電話や、地デジなどのテレビ放送に用いられています。

マルチパス環境

OFDMの説明に移る前に、高速通信を実現するための課題について説明します。

通信を高速化するにあたり、課題となるのが遅延波です。

下記に、送信機から受信機への電波の到達イメージを示します。

送信機から受信機へと信号を伝送するとき、信号は障害物によって反射を何度も繰り返した後、受信機へと到達します。

このような環境を、信号の通る道(パス)が複数あることから、マルチパス環境と呼ばれます。

マルチパス環境で受信機に届く信号は、様々なパスを通ってきた信号すべての合成となり、減衰や波形の歪みを生じてしまいます。

これをマルチパスフェージングと言います。

マルチパスフェージングは、周波数一様フェージングと周波数選択性フェージングの2つに分類されます。

周波数一様フェージングは、到来時間の差が小さい波の合成の結果、信号が減衰して振幅と位相が変化してしまう現象です。

一方、周波数選択性フェージングは、到来時間の差が大きい波の合成によって生じ、波形が歪んでしまう現象です。

到来時間が遅い波を遅延波といいますが、高速通信環境下ではこの遅延波により、周波数選択性フェージングを引き起こします。

なぜなら、高速になればなるほど、少しの遅延でも、元々の波形を歪ませてしまうからです。

下記が低速通信と高速通信の違いのイメージです。

相対的に、同じ遅延時間だったとしても、低速通信の場合に比べて、高速通信では少しの遅延でもは波形歪みを引き起こしてしまいます。

OFDM

この遅延波による波形の歪みへの解決策として、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)と呼ばれる多重化方式が大変有効なのです。

OFDMは、単にデータを送るのではなく、低速のデータを一気に複数同時送信する、という手法をとっています。

なぜなら、上記の(a)の波形のように、低速通信であれば波形の歪みは無視できるからです。

しかし、単にゆっくり送ると伝送速度が低くなるため、この低速な信号を並列的に多数同時送信することで、全体の伝送速度が下がらないように工夫をしているのです。

ただし、単に低速化した信号を並べて足し合わせるだけでは、シンボルが混ざり合ってしまい、それぞれの信号を区別することができません。

そこで、OFDMではサブキャリアと呼ばれる、複数の周波数の信号に分けて送信します。

というのも、OFDMでは下図に示す通り、各サブキャリアに対して、他のサブキャリアの信号の強さがちょうど0になるような周波数間隔にすることで、各サブキャリアが干渉しないようにしているのです。

この干渉を発生させない周波数Δfを選ぶのがコツなのです。Δfはシンボル長Tsより、Δf=1/Tsと求められます。

このように、サブキャリア同士が干渉しない状態を直交と呼びます。

OFDMではサブキャリアの直交性を保つため、正確な周波数同期が必須です。

ガードインターバル

しかしながら、これでもまだ遅延波の影響が避けられません。

下記の例の真ん中のシンボルを見てください。

遅延波では、前のシンボルが遅延によって入り込んでしまっています。(これをシンボル間干渉や符号間干渉といいます)

これを防ぐための工夫が、ガードインターバル(Guard Interval;GI)なのです。

ガードインターバルは、自身のシンボルの後ろの部分を、先頭にコピーして付加したものです。

これにより、遅延があっても、ずれ込んだ部分も自身のシンボルであるために干渉とならず、信号を復元できますので、シンボル間干渉の影響を避けることができます。

ただし、ガードインターバルを挿入する分、元の信号に比べて信号が長くなるため、伝送速度が低下してしまいます。

そのため、GIを長くとり過ぎないように通信の規格が決められています。

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